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- ロシアの傭兵組織ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが死亡した。
- プリゴジンは8月23日に搭乗していた小型ジェット機が墜落し、炎上したとされる。
- 同乗していた複数のワグネル幹部も巻き添えになった。
- プリゴジンの死はロシア大統領ウラジーミル・プーチンの指示による暗殺である可能性が高い。
- プリゴジンは2カ月前にプーチンに反乱を起こし、恥をかかせた。
- プーチンは自分に背く者を消すことで知られている。
- ワグネルは高級武装ブランドであり、過剰な暴力が伴っている。
- ワグネル所属の傭兵が残虐な行為を行う動画がSNSで拡散されている。
- ワグネルは欧州議会から「テロ支援国家」と認定されており、その象徴として大型ハンマーが使われている。
- プリゴジンの死を追悼する祭壇がワグネル本部の前に設けられた。
誰も驚かない「いかにも」なプリゴジンの最期…だからこそ「ワグネル・ブランド」は今後もアウトローを魅了し続ける
<「プリゴジン死してもワグネルは死なず」。反乱を企てた民間軍事会社トップが謎の墜落死、組織はプーチン体制内でどのように生き続けるのか> 死して屍(しかばね)、拾う者なし。 ロシアの野蛮な傭兵組織ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが死んだ。8月23日に搭乗していた小型ジェット機がロシア領内で墜落、炎上したとされるが詳細は不明。ある意味、「いかにも」な最期だった。 同乗していた複数のワグネル幹部も巻き添えになった。状況はまだ謎に包まれているが、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの指示した暗殺であることはほぼ間違いない。 プリゴジンが無謀な反乱を起こし、プーチンに恥をかかせたのはちょうど2カ月前の6月23日。ただで済むわけはなく、消されるのは時間の問題だった。自分に背く者は消す。それがプーチン流だ。 マフィアさながらの凄惨かつ残酷な手口だが、これが自分に歯向かう者の運命だという見せしめとしては効果的だ。しかしそれは、プリゴジンが一代で築き上げたワグネルの「ブランド」にふさわしい死に方でもあった。 そう、ワグネルという高級武装ブランドには過剰な暴力がよく似合う。2019年にロシアのSNSで拡散された動画には、シリアでワグネル所属のロシア人傭兵が現地の男性を大型ハンマーで殺害する姿があった。 昨年11月には、ワグネルの脱走兵とされる人物がハンマーで頭をたたき割られる動画が出た。このときプリゴジンは、このビデオには「犬は犬死にする」という題を付けようと提案している。 その後、この大型ハンマーはワグネルの理不尽な残虐性の象徴となった。欧州議会がロシアを「テロ支援国家」と認定し、ワグネルをその先兵と位置付けたときは、欧州議員たちに血のりのような塗料の付いたハンマーを送り付けている。 流血の蛮行を賛美する 8月24日にはサンクトペテルブルクにあるワグネル本部の前に、プリゴジンらを追悼する祭壇が設けられた。SNSに投稿された画像を見ると、山と積まれた花束の上に巨大なハンマーが鎮座していた。 ===== ワグネルというブランドは、最初から暴力を売りにしていた。組織の名称はドイツの国民的作曲家リヒャルト・ワーグナーにちなむ(アドルフ・ヒトラーがワーグナーを崇拝していたのは有名な話だ)。 モットーは「血、名誉、祖国、勇気」で、ブランドのロゴには照準器の十字線に囲まれた髑髏(どくろ)が描かれ、英語とロシア語で社名が刻まれている。 世界中にその名が知れ渡るのはウクライナ戦争の最前線に立ってからのことだが、ブランド構築の努力は何年も前から続いていた。国内外に向けた宣伝工作と人材確保のため、自主制作の映画を何本も発表して、戦闘員たちのヒロイックな「活躍」を伝えてきた。 例えば21年の『ツーリスト』という作品は中央アフリカ共和国が舞台で、ワグネルの戦闘員がいかに高度な訓練を受け、殺傷能力に優れたエリートかを描いている。 一般受けのする手法ではないが、一部の変質者を標的とするマーケティングには効果的だ。過激派組織「イスラム国」(IS)も同じ手法を用いていた。ISは、斬首や火刑、人身売買などの動画をばらまいて心のゆがんだ男たちを集める一方、一般大衆には恐怖心を植え付けることに成功した。 ワグネルも同様だが、その暴力性に魅せられるのは変質者だけではない。世界各地の独裁者や軍事政権、クーデターをもくろむ者たちもワグネルの大事な顧客だ。 ワグネルはまた、戦場でのプロパガンダにもたけている。メッセージアプリのテレグラムやロシア版SNS「VK」を通じて、病的なまでに勇猛果敢なカルト的イメージを拡散させるのが得意で、時には自作自演のフィクションも織り交ぜて、戦場での野蛮で残虐な行為を英雄的なシーンに仕立て上げてしまう。 しかし、その過剰な暴力性というイメージを除けば、ワグネルというブランドの放つオーラの大半はまやかしだ。ワグネルは「民間軍事会社」を自称しているが、その実態は「民間」には程遠い。 この6月下旬にはプーチン自身が、ワグネルには政府が資金を提供しており、過去1年だけで10億ドル以上も払ってきたと認めている。そもそもロシアには民間軍事会社など存在しないはずだが、ワグネルだけは宣伝も戦闘員の募集活動も許されている。 ロシアの国営メディアもワグネルに好意的な映像を流してきた。だから国内でのワグネルの人気は高い。 ===== 2カ月前の反乱の際、ロシア南西部のロストフナドヌに進軍したワグネルの部隊は、市民から熱狂的な歓迎を受けた。反乱が頓挫した後も、プリゴジン人気が衰えることはなかった。 プリゴジンはウクライナ戦争の前線に赴き、インターネットを通じてロシア軍の上層部を痛烈に批判した。そして自分こそ真の愛国者だというイメージを打ち出した。 5月には、ウクライナで死亡したワグネルの戦闘員とされる数十人の遺体が地面に並ぶ様子を撮影した動画を投稿した。大勢の兵士が遺体となって帰国することに怒りと屈辱感を募らせるロシア民族主義の愛国者にアピールするには絶好の演出だった。 プリゴジンは戦死者を「祖国のために命をささげた」とたたえ、彼らを殉教者に仕立て上げた。自分がその殉教者の1人になるとは、まだ思ってもいなかったのだろう。 一方でワグネルは、ウクライナでの愚行と蛮行のせいで国際的な評判を落とした。シリアではISを掃討し、油田やガス田を制圧する活躍で名を上げたが、ウクライナで戦っているのは受刑者や乱暴者の寄せ集め集団にすぎず、まさに砲弾の餌食となっている。 こうなると、もはや高級武装ブランドではない。今のワグネルは、ほぼ「暴力を自己目的とする無法集団」に成り下がっている。 ロシアの軍隊が昔から「質より量」を重んじてきたのは事実だが、ならず者に粗末な武器を持たせ、まともな訓練もせずに戦場に送り込むという手法で、ワグネルのブランド価値は大いに損なわれた(ただしアフリカや中東の一部の国では今も重宝されている)。 そして6月に反乱を起こしたことで、「無法者」というワグネルとプリゴジンの悪評はさらに上塗りされた。短命に終わった「モスクワ進軍」はロシア政府内の亀裂を露呈させ、結果としてプリゴジンの身の破滅につながった。 ===== 報復を示唆する? 宣言 6月の反乱が頓挫した後、プーチンが最初に行ったのは、多くの人が予想していた「プリゴジンの排除」ではなく、国外でのワグネルの任務は続くと保証して各国の独裁者の不安を和らげることだった。 プーチンはプリゴジンにも偽りの安心感を抱かせ、今後も変わらずに活動を続けられると信じ込ませた。7月にサンクトペテルブルクで開かれたロシア・アフリカ首脳会議では、アフリカ諸国の指導者と会談するプリゴジンの姿が確認されていた。 だがオーナーのプリゴジンと複数の幹部を排除した今、プーチンはワグネル・ブランドの再構築を考えているかもしれない。このブランドには今も一定の価値があるし、今ならプーチンがワグネルに対する支配権を取り戻し、好きなように操れるからだ。 創業者を失ったワグネルがブランドとして存続していくためには、今まで以上にプーチンに接近し、何であれプーチンの望む役割を果たすしかあるまい。プーチンはワグネルを政府の指揮命令系統に組み込もうとするだろう。ロシア軍の指導部を批判することなど、もちろん許されない。 いや、これで決まりではない。プリゴジン暗殺がプーチンの指示によるものなら、誰かが報復を試みてもおかしくない。現に、ワグネルの運営するテレグラム・チャンネル「グレーゾーン」にはこんな宣言が掲げられた。 「ワグネル・グループの総帥にしてロシアの英雄、真の愛国者であるエフゲニー・プリゴジンは、ロシアを裏切る者たちのせいで命を落とした」 先は読めないが、確かなことが1つだけある。誰が次なるブランドの顔になろうと、過剰な暴力とその拡散が終わることはない。 From Foreign Policy Magazine ===== プリゴジンが乗った飛行機が墜落する瞬間と捜索 A video appeared, which allegedly shows the moment of the crash of Prigozhin's plane. pic.twitter.com/KkTmw7LoH9— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) August 23, 2023 Prigozhin plane crash: Wagner bodies taken to Russian mortuary for investigation/The Telegraph
ソース:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/08/post-102506.php
プリゴジンは反乱を起こし、ロシア大統領プーチンに恥をかかせたため、プーチンの指示による暗殺とされています。ワグネルの傭兵が大型ハンマーで人を殺害する映像や、欧州議会がワグネルをテロ支援組織と認定したことなどが紹介されています。また、プリゴジンの死を追悼する祭壇の様子も報じられています。